公契約法の現在の状況

6、現在の状況

1)衆議院労働委員会

1991年11月22日の衆議院労働委員会で故沖田正人衆議院議員(当時の社会党)が 「公契約における労働条項に関する条約、すなわち第94号条約は既に42年前に制定されている ということでありますが、我が国ではなぜこの94号条約が批准されていないのか、その理由と現 況についてお答えをいただきたいと思います」という質問をした。

それに対して佐藤(勝)政府委員は「我が国におきましては、ご承知のように労働基準法なり最賃 法等で最低労働基準の確保を図っておりますけれども、ほかの産業と同じような労働条件を保障するという意味で法制度がとられていないわけでございまして、個々の労働条件につきましては関係 の労使の間で決定されるという全体的な枠組みになっているわけでございます。
そういう意味で、現在これを批准することは困難な状況でございますし、また、この条約が採択されました当時の状況と現在の社会経済情勢が非常に異なってきているということで、現在はそ の批准の可能性について検討も行っていない状況にございます」(衆議院労働委員会議事録抜粋) というやりとりがあった。

 

2)企業の反応

1983年(昭和58年)に全建総連東京都連合会で全建総連の首都圏組合に呼びかけ大手ゼネコンなど 建設・住宅企業に対して賃金引き上げや労働条件改善を求めて交渉をおこなった。
その翌年の1984年9月26日に全建総連関東地方協議会で第1回の企業交渉をおこない、それから年 に春と秋の2回、継続して企業交渉をおこなっている。それも2002年(平成14年)春で18年間、 36回を数えることになった。

その交渉で企業側に対して公契約法の賛同について要求をおこなているが、企業側から公契約法について 「賃金・福祉向上の点から評価するが、疑問点もある」「行政が主体となり業界を巻き込んでいくべきだ」 「基本的には賛成だが、国がやるべきだと思う」「公契約法が一番有効である」「後継者育成に有効である」 「公契約法に賛成している」などの回答がある。
これらの回答がすべて企業としての考えとは言えないが、労安担当部長などの個人的な考え方のほうが強い と言えるけれども、以上のような企業側の回答がある。

 

3)地方自治体などの主な動き

地方自治体に対して公契約条例制定の要請を行っている。
そこで東京を中心にしていくつかの反応がある。

〈1〉北区議会では、150臨時国会で成立した「公共工事の入札及び適正化の促進に関する法律」の成立に 関連して、民主区民クラブ提出で「ILO第94号条約の主旨を踏まえ」前記の法律が成立するよう議会決 議の準備をしていた。 しかし、区議会本会議が開かれる前に参議院で法案が成立したためこの決議は行われ なかったが、この決議を行う準備段階で北区議会全会派で「ILO第94号」の賛同を得たことは重要である (2000年11月)。

〈2〉世田谷区では区発注の工事に関して現場労働者への賃金が適正に支払われるシステムが必要であるという 関係から、民間団体(労働組合など)の研究会に行政の契約担当者が参加した(2000年9月4日)。 このことですぐに公契約条例ができることにはならないが、行政の担当者を含め、こうした研究会が各地区で 開かれ、継続されるべきである。

〈3〉府中市議会で民主党議員が「工事請負契約の契約条項の中に現場作業従事者のうち未熟練を除いた一般の 者に対して、公共設計労務単価(二省協定賃金)に基づいた賃金が支払われるように措置するという条項を加え たらどうか」という質問に対して、担当部長は「市の工事請負契約書の中の第1条に、国の法令を遵守する規定 をしており、その条項をもって対応しているが、市ができるものがあるかどうか研究してまいります」という答 弁があった(2000年9月)。研究するとすれば公契約条例しかないので多いに研究してもらいたいものである。

〈4〉東京都東大和市議会の総務委員会に全建総連参加の首都圏建設産業ユニオン多摩中央支部が公契約条例制 定に向けての陳情を行った。
その要旨は
(a)東大和市が発注する工事について最低でも公共工事設計労務単価を根拠に積算された労務経費 が当該工事現場に従事する下請事業所の労働者職人の賃金として確保できるような施策を検討されたい。
(b)公契約条例の制定に向けて適正化指針の策定内容とあわせ十分検討されたいというものである。
2001年6月19日に東大和市議会長により「平成12年12月14日付けで提出された公契約条例制定に 向けての陳情は審議の結果、趣旨採択と決定しました」という通知がきた。 その後、本会議でも趣旨が採択され た。 これは当該組合の総務委員会への傍聴などがあったとしても、全会一致で採択されたことは重要である。 (2001.07追記)

〈5〉武蔵村山市でも趣旨採択がされた。 これは東京土建の陳情によるものである。(2002.06追記)

〈6〉神奈川県相模湖町議会に全建設省労働組合間関東地方本部京浜支部から提出された 「建設労働者の賃金と労働条件の改善を求める陳情書」が議会で趣旨採択された。
この陳情書には公共工事設計労務単価を下回る賃金をやめさせること、下請契約は工事前 に書面で行い指し値発注を根絶させること、過度のダンピング競争の防止と最低制限価格 制度を維持し下限度を引き上げること、建設労働者への社会保障制度の普及を図り、法定 福利費の別枠支給を行うことなどもあるが、その中に「公共工事に働く労働者の賃金を保 証する公契約法を制定すること」という項目も含まれている。従って公契約条例の趣旨が 採択されたことになる。こうした趣旨採択も当面の活動としては非常に有効である。 (2001.07追記)

〈7〉全建総連栃木建労で2001年の暮れ県会議員を含む地方議員と各組合地本役員を含めた 研究会に14~15人の地方議員が出席して熱心に勉強された。

〈8〉2002年春に、千葉県社民党地方議員団総会で県会議員と市議会議員などで公契約法の 研究会が開かれた。

〈9〉2001年に全建総連秋田建労で議員懇談会が開かれ各会派が出席、全建愛知でも議員懇 談会が開かれ民主党を中心とする議員が参加された。 (2002.04追記)

〈10〉国会議員や地元の建設企業を中心に公契約法(条例)の賛同署名をお願いしている。
確かに賛同の署名をいただいているので、それは貴重であるが公契約法をどれほど理解しているか ということは、はなはだ疑問があるので今後も賛同署名は、公契約法を理解してもらいながらそれ はそれとして集めていかなくてはならない。

〈11〉国会もそうであるが、地方議会の場合も地方議員に理解してもらわなくてはならないので 建設労働者や議員・行政を含めた勉強会や研究会が必要である。
国会は勿論のこと地方議会でもほぼ全会派の賛同を得なければ公契約法(条例)は成立しないだろう。 従って、重要なことは地元の建設業者の賛同も必要であるから、業者を含めた勉強会や研究会も行わ なければならない。

また、地方自治法の直接請求の運動も必要に応じておこなわなければならない。 地方自治法第74条では「普通地方公共団体の議会の議員及び選挙権を有するものは、 政令の定めるところにより、その総数の50分の1以上の者の連署を以て、その代表者から、 普通地方公共団体の長に対し、条例の制定又は改廃の請求をするこができる」ことになっている。
直接請求が成功して地方議会に出されたとしても、地方議会での議員各会派の賛同が必要である。 直接請求の運動も必要ではあるが議員や議員とつながりのある地元業者の賛同を得る運動を抜きに 直接請求だけでの運動では困難であるので、公契約法を理解してもらうため関係者との研究会を含めた あらゆる運動の選択肢を考えていきたい。

ゼネコンを中心とする建設業界の現在の姿は決して正常とはいえない。 1日も早く正常な状態、いわゆる建設に働く労働者が他産業労働者と同じような労働条件下におか れ、企業も健全な姿にもどり、常識では考えられないような低単価受注競争を止め、正当な受注競 争の中で21世紀における建設生産活動がおこなわれ国土の発展に寄与しなければならないだろう。

そのためにも、政府や地方自治体の担当者・各級各会派の議員・建設業者・労働組合が一体となって研究し、 日本に見合ったILO第94号条約、いわゆる公契約法(条例)=国等の契約に於ける賃金等確保法が成立するように臨むものである。