公契約法(条例)

4、公契約法(条例)

1)先進58ケ国にある法律

公契約法は現在58ケ国にあるがこの法律は日本にはない。
公契約法は国が発注する建設工事に適用し、公契約条例は地方自治体の発注する工事に適用するために国なり 地方自治体で決められるべき法及び条例である。
この法律よって公共工事における腐敗構造にすべてメスを入れることにはならないと思うが、この法律なり条 例を創設すれば日本におけるあらゆる公共工事をめぐる汚職構造を一定程度排除するとともに、工事の透明性 を確保し、21世紀の建設生産活動がスムーズにおこなわれ、建設業界の健全な発展を臨むものである。 これは単に建設労働者だけではなく、経営者も下請業者や労働者も含め業界全体としてとしてとりくむべき課題である。

この公契約法を一言でいうと「公共工事について労働者の賃金・労働条件を決めて、その決めた内容が実際に 現場労働者に適用される」ことである。

例えば型枠大工の賃金が1日2万5千円と決めて、 その金額で見積もりをして入札をし落札したら「実際に型枠大工にその2万5千円が支払われる」 と言うシステムである。
日本の建設業の場合は、これまでも述べてきたように数次に渡る重層下請制の中で建設生産活動が おこなわれている。下請業者のなかの「労働賃金をピンハネする」ことで成り立っている業者も沢 山いるし、ペーパーカンパニーや暴力団など闇の世界の手配師も現存している。

これらを改めるためにも公契約法はつくられるべきである。そこで、この問題に対して全建総連 (全国建設労働組合総連合72万人、中央執行委員長加藤忠由)は、その試案を作成した。
この試案がそのまま作られるべきであるとは思わないが、ILO第94号条約を基本として、 日本の建設生産構造に見合った公契約法が作られるべく業界・行政・労働者の三者による検討が必要だろう。 次にその試案を述べたい。

 

2)公契約法(条例)・公共工事における賃金等確保法の試案(詳しくは資料を参照)

〈1〉目的
国等が発注する建設・土木の工事に従事する労働者にその対価(労働賃金)が公正に配分されとともに労働時間など労働条件が確保され、工事の質が確保されるようにすることを目的とする。

〈2〉適用範囲
国の機関や特殊法人(道路公団や都市整備公団など)で工事代金の過半数以上が税金で支払われる建設・土木工事をその範囲とする。

〈3〉元請負人の責任
公契約工事の受注者である元請は労働条件の確保の義務を負う。

〈4〉賃金額
工事を請負った者は労働者に対して標準賃金額を決め、決めた額を下回らないように支払わなければならない。

〈5〉標準賃金額以外の労働者を使用する場合
ⅰ、未熟練労働者の場合は労働大臣が告示する標準賃金額でなくても良い。
ⅱ、前項の未熟練労働者は公契約工事現場では各職種ごとに3分の1以下の労働者しか使用してはいけない。また、未熟練労働者の賃金は標準賃金額の3分の1の額を下回ってはいけない。
ⅲ、標準賃金額の規定を受けない労働者を使用する場合は、書面で標準賃金を受けない旨の同意書を受けなくてはならない。

〈6〉労働時間
労働基準法による。

〈7〉賃金及び労働時間以外の労働条件
ⅰ、公契約工事のその地域における同職種の労働者に適用される労働協約を下回ってはいけない。
ⅱ、その地域に労働協約がない場合はその隣接地域の労働協約を適用する。なお、その地域一帯に労働協約がない場合は、労働大臣及び都道府県知事が、その地域の過半数の労働者に適用されている労働条件を認定し告示する条件による。

〈8〉下請を含む受注者の連帯責任
決められた標準賃金額を下回って支払われた場合はその差額分の支払い責任を下請業者も負う。

〈9〉労働者への周知の義務
賃金を含む労働条件等について、現場の見やすい場所に掲示をして労働者に周知させる。その内容は次の通りとする。
ⅰ、標準賃金額(例えば型枠大工・鳶土工・鉄筋工・塗装工・電工などの各職種ごとの賃金額)
ⅱ、所定労働時間や休日
ⅲ、前記以外の労働条件
ⅳ、前記の項に関する責任を負う者の氏名と連絡先
ⅴ、国及び自治体等発注者の名称と連絡先

〈10〉履行の確保の方法
ⅰ、支払いの留保
受注者が労働者に対して標準賃金を支払っていない旨の申し出があった場合は、発注者は受注者に対してその金額の支払いを留保する。
ⅱ、労働者に対する直接支払
受注者が労働者に対して標準賃金を支払っていない旨の申し出があった場合は、発注者はその差額分を直接労働者に支払う義務がある。

〈11〉公契約で定める受注者の義務
ⅰ、労働者に標準賃金額を支払う義務を負う。
ⅱ、労働者に標準賃金を支払わなかった場合は、下請業者も含め連帯責任を負う。
ⅲ、賃金以外の労働条件についても遵守するよう万全な措置を講じる。
ⅳ、関係労働者に労働条件を周知させる義務を負う。

〈12〉監督と制裁
ⅰ、是正命令・契約解除
イ、義務違反があった場合は、発注者は是正を命じる。
ロ、義務違反があった場合は、契約を解除することができる。
ⅱ、新規契約締結の停止
重大な義務違反があった場合は、一定期間入札を禁止する。
ⅲ、調査
イ、発注者は公契約が遵守されているかどうか調査をおこなう。
ロ、労働基準監督署は公契約が遵守されているかどうか調査をおこなう。
ハ、労働基準監督署は違反があることを知った場合は、発注者に速やかに知らせる。
ニ、労働基準監督署は違反があることを知った場合は、会計検査院に速やかに知らせる。